「受講者がいないので、申しわけないですがあなたの担当コマはなくなりました」「そのかわりに1ヵ月分支給します。ほんとうにすみません」。こんな経験ありませんか? その時間をせっかく空けたのに、これでは食い上げです。
 労働契約法17条では、明文の規定で、「やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」とされています。また民法628条でも、直ちに契約の解除をした場合には、「その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う」とされています。非常勤講師の労働契約は、通常1年または半期ごとに締結されています。このような期限を定めた労働契約を、「期間の定めのある労働契約」と呼びます。上記の不開講は、この「期間の定めのある労働契約」の中途解約にあたります。その場合に、解約に際して責任を有する一方が、その賠償責任を負うことになり、その金額は全額です。
 しなしながら、この場合に、大学の理事長との間の労働契約書に、ごていねいに、「乙の担当する講義等の履修人数が著しく少ない場合は、当該講義等を非開講とする場合がある。この場合は、1箇月分の給与を支払うこととする」などと記載していることがあります。そのまま読むと、法律では全額補償しなければならないのに、労働契約書では1ヵ月という契約を交わしたから、1ヵ月分しか出ないのではないか、というのが頭をよぎります。しかしご安心を。いくら契約書に明記したからといって、この労働契約法上の規程は強行規定ですので、契約書の文面の方が無効です。
 そこで次の問題は、仮に全額を補償するとなっていても、実際に仕事していないために、技術的に休業扱いとされてしまって、その結果休業補償の60%しかもらえないのではないかということです。この規定は、労働基準法76条に記載されています。しかしながら、宇都宮地判2009年5月12日では、「債権者らに対して、方気圧的、かつ、一律に、契約期間の満了日までの3ヵ月以上という長期間にわたる休業によって、一方的に多大の不利益を課した本件休業について、高度の合理性を肯定することができないことは、もちろん、合理性を認めること自体、到底困難である」としたうえで、「使用者による休業によって労働者が被る不利益の内容・程度、使用者側の休業の必要性の内容・程度、他の労働者や同一職場の就労者との均衡の有無・程度、労働組合との事前・事後の説明・交渉の有無・内容などの考慮要素に係る……認定事実、とくに、上記……諸事情を総合考慮すれば、本件休業の合理性を肯定することは、到底困難であるといわざるを得ない」とし、「賃金請求権の被保全権利の存在を肯定」し、その期間の予定されていた賃金の全額を求めたました。
 上記考慮をせず、あたかも当たり前のように不開講・解雇する行為は、すでに上記の違法な範囲にあると思われます。