これまでまじめに何年も何年も勤めてきたのに、ある時突然、「来年度から開講しないことにしました。あなたとの契約は1年更新ですので、今回限りで契約更新はありません」という連絡がきた。あなたならどうしますか?
 これが一般のパートやアルバイトの人、その人が「納得いかない」といえば、使用者側はたいへんなことになります。

一般のパートタイマーの場合は?

 期間の定めのある労働契約につき、最高裁第1小法廷判決1974年7月22日(最高裁判所民事判例集28巻5号927頁)は、これが反復更新された場合、その雇い止めの場合、期間の定めのない労働契約において適用される解雇権濫用法理が適用されること、すなわち期間の定めのない労働契約を同視すべき状態として存在すると判断しています。
 いわく、「本件各労働契約においては、上告会社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたものであつて、実質において、当事者双方とも、期間は一応二か月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であつたものと解するのが相当であり、したがつて、本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各傭止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる、とするのであり、また、そうである以上、本件各傭止めの効力の判断にあたつては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきであるとするものであることが明らかであ」る、と。
 →東芝柳町工場事件判決
 この判決例は、上告会社と契約期間を2か月と記載してある臨時従業員としての労働契約書を取りかわして入社した基幹臨時工について、その採用に際しては、上告会社側に、当該労働者側に対して長期継続雇傭、本工への登用を期待させるような言動があり、当該の労働者らも、右期間の定めにかかわらず継続雇傭されるものと信じて前記契約書を取りかわしたのであり、また、本工に登用されることを強く希望していたものであつて、その後、上告会社と被上告人らとの間の契約は、5回ないし23回にわたつて更新を重ねたが、上告会社は、必ずしも契約期間満了の都度、直ちに新契約締結の手続をとつていたわけでもない、という実情がありました。
 この判例はその後現在においても、期間の定めのある労働契約が反復更新されることによって事実上期間の定めのない労働契約を同視しうるものとなるとの解釈を樹立したものとされています。大学の非常勤講師についても、同様のことが言えます。

大学非常勤講師にも適用の余地あり

 それでは、大学の非常勤講師については、どのようになっているのでしょうか。
 名古屋高裁判決2003年12月26日は、「期間の定めのある労働契約でも,いずれかからの格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと認められる場合には,当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものとして,いわゆる雇止めの効力を判断するのに解雇に関する法理を類推すべきものといえる。/しかるところ,本件労働契約が19回も更新されて20年近く存続してきていることや,本件保育科の他の音楽の非常勤講師にも長期間にわたって反復して委嘱を受けてきた者が多いこと,音楽〈1〉や特〈1〉の授業が非常勤講師に委嘱されるのは,少人数教育の必要なピアノ実技指導を全て専任教員で賄うことができないためであって,授業内容の点では,非常勤講師と委嘱期間の定めのない専任教員との間に特段の差異がないことからすれば,本件労働契約の雇止めの効力を判断するのに解雇に関する法理を類推すべき素地が全くないというわけではない」として、上記東芝柳町判決の判事事項をさしあたり適用しようとしています。
 そのうえで、「本件短大における非常勤講師の委嘱は,1年毎に学科会議で実質的に審議され,教務委員会や教授会の議を経て更新するという手続が履践されており,対非常勤講師の関係においても,昭和56年か昭和57年ころ以降は,毎年,委嘱期間が明記された契約書が委嘱更新の内定した非常勤講師に送付され,当該非常勤講師がこれに押印して返送されるということが繰り返されているのであって,被控訴人学園と非常勤講師の労働契約が当事者双方の1学年の間の授業の委嘱という共通認識の下に更新されていたことは明らかであり,控訴人についてもその例外ではないのであるから,本件労働契約がいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべきものとして締結されていたものと解することは困難であり,当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものとすることはできない」としつつも、最終的には、「期間の定めのある労働契約が,期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものとまではいえないにしても,その労働契約に労働者がある程度の継続を期待することに合理性が認められる場合には,期間満了によって当然に終了するものとはせず,雇止めには相応の理由を要するものと考えるのが相当である」こと、「本件労働契約は更新が19回も繰り返されて20年近くも存続してきており,本件保育科の他の音楽の非常勤講師の多くも同様に長期間にわたって雇用が存続されていることからすれば,本件労働契約について,雇用継続の期待を保護する必要性を全く否定して,期間満了によって契約が当然に終了するとまで断ずることは躊躇される」として、結論的に東芝柳町判決の判事事項を部分的にでも採用しています。
 そして、上記の「相応の理由」として、「一応の相当性」を要求しています。

大学側のカリキュラム編成権

 この場合、この「一応の相当性」なるものにつき、大学側のカリキュラム編成権を根拠としているようです。いわく、「本件カリキュラム改革は,平成3年の短期大学設置基準の改正等といった社会状況を背景とする教育改革動向に基づき計画されたものであって,高等教育の実施機関たる大学の専権事項の範囲に属するものであり,その授業内容の編成や授業時限の設定,担当教員数や受講学生数にも一定の合理性が認められるから,これ以外に委嘱停止となる非常勤講師を生じさせないようなカリキュラム編成の方策が仮にあったとしても,なお,その相当性が失われるものではない」としているのです。
 名古屋高裁がこのように、あれこれと思い悩みつつも、最終的に原告敗訴の判決文を書いた背景には、前記東芝柳町判決において、「その採用に際しては、上告会社側に、当該労働者側に対して長期継続雇傭、本工への登用を期待させるような言動があり、当該の労働者らも、右期間の定めにかかわらず継続雇傭されるものと信じて前記契約書を取りかわした」という事実に基づくものであったことが重要だと思われます。

1回限りの契約がそれぞれ完結?

 この名古屋高裁判決は、「本件短大における非常勤講師の委嘱は,1年毎に学科会議で実質的に審議され,教務委員会や教授会の議を経て更新するという手続が履践されており,対非常勤講師の関係においても,昭和56年か昭和57年ころ以降は,毎年,委嘱期間が明記された契約書が委嘱更新の内定した非常勤講師に送付され,当該非常勤講師がこれに押印して返送されるということが繰り返されているのであって,被控訴人学園と非常勤講師の労働契約が当事者双方の1学年の間の授業の委嘱という共通認識の下に更新されていたことは明らかであり,控訴人についてもその例外ではないのであるから,本件労働契約がいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべきものとして締結されていたものと解することは困難であり,当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものとすることはできない」として、大学非常勤講師の場合、一般のパートタイマーと呼ばれる就業形態の労働者とは異なって、あたかも1回限りの契約がそれぞれ完結しているかのような就業形態であると判断しています。

反復更新を期待しうる有期雇用契約の場合は?

 しかしながら、上記のように、「雇用継続の期待を保護する必要性を全く否定して,期間満了によって契約が当然にに終了するとまで断ずることは躊躇される」との解釈をせざるをえないところにまで追い込むことは可能であろうと思われます。
 現在のところ、法的に認められた権利の水準は上記のとおりです。しかしながら司法判断とはあくまでも最低限度の水準のものです。それを上回る労働契約は可能です。上記最低限度の水準を踏まえて、どこまでその権利を拡大していくのか、それはこれからのさまざまなとりくみにかかっています。